信濃毎日新聞の2面に、南箕輪村農業再生協議会が主食用米の生産調整目安値を考慮しない方針に関する記事が掲載されました。
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025061101157

この記事を受けて、あたかも本村が全国に先駆けてこの方針を打ち出したかのような印象が広がっているようですが、実際の経緯や背景について、少し補足をしておきたいと思います。
信濃毎日新聞の記者の談話によれば、長野県内においては、以前から目安値を考慮していなかった佐久地域を除けば、上伊那地区の一部、すなわち南箕輪村や箕輪町以外では、同様の動きは見られていないとのことです。そうした意味でも、本村の取り組みが意外に映った方も多いのではないでしょうか。
ただ、これは見方を変えれば他地域では生産を拡大する余力がないことを示唆しているかと感じます。
増産判断に至った3つの背景
今回、南箕輪村として「主食用米の生産調整を行わない」という判断に至ったのは、主に以下の3つの要因によるものです。
1.米騒動による影響
いわゆる「令和の米騒動」によって、政府備蓄米の放出が進み、備蓄量が減少傾向にあります。また、各家庭における米の備蓄も高水準で推移すると予想されることから、今後数年の短期的なスパンでは米の需要が高い状態が続くと見込まれています。
さらに、親戚や知人から直接購入する「縁故米」のニーズも年々高まっており、こうした市場動向を踏まえると、生産を抑制する必要性は乏しいと考えています。
加えて、米価の上昇によって農家の意欲が高まり、結果として生産面積の拡大も進んでいます。
2.村の施策による支え
南箕輪村では、特別栽培米「風の村米だより」の生産体制を強化してきました。今回の米価上昇より前から、面積拡大や販路の確保に力を入れており、現在は100haの生産面積を目標としています。
「風の村米だより」は、妊婦さん向けのマタニティプロジェクトや、保育園・小中学校の給食で使用されているほか、今後は子どもたちが家庭から持参するご飯についても、この米への切り替えを検討中です。
また、都市部の自治体からも直接の引き合いがあるなど、安定した需要がすでに生まれつつあります。農事組合法人「まっくんファーム」の組織力により、村独自の柔軟な農業政策の実行が可能となっているのも大きな強みです。
肥料には鶏ふんを活用しており、肥料価格の高騰にも比較的影響を受けにくい点も評価されています。さらに、販売先である東洋ライス社による「金芽米」や「ロウカット玄米」といったブランドの成長、海外展開の加速も追い風となっています。
3.地域がもつ環境的な強み
南箕輪村を含む上伊那地域は、南アルプス・中央アルプスの清流に恵まれ、昼夜の寒暖差によって味のよいお米が育つことで知られています。
また、標高が高く、放射冷却によって夜間の気温が下がるため、温暖化の影響による高温障害も受けにくいという利点があります。
東京圏・中京圏・近畿圏へのアクセスにも恵まれており、流通面でも有利な立地といえます。
以上の3点を踏まえ、現時点では中長期的なビジョンの見極めが必要な段階ではあるものの、少なくとも短期的には、主食用米の生産を積極的に行う環境が整っていると判断しています。
南箕輪村としては、現場の声や地域の強みを大切にしながら、持続可能で自立した農業のあり方を模索していきたいと考えています。