権兵衛トンネル開通20周年記念事業での基調講演の様子

2025年11月24日に、長野県伊那文化会館小ホールにて、権兵衛トンネル開通20周年記念事業が開催され、沓掛道路局長による基調講演や、俳優の田中要次氏をお迎えして、記念トークショーが行われました。

権兵衛トンネルは平成18年2月4日に開通しました。

なお、令和元年に崩落した箇所は南箕輪村です。

詳細は下記記事よりご確認ください。

基調講演

「地方における道路整備の重要性」
国土交通省 道路局長 沓掛敏夫 氏

■ 道路行政の20年

  • 日本道路公団の民営化からちょうど20年。
  • 品質確保の根幹となる「品確法」も議員立法で制定されて20年。
  • 道路インフラの考え方を転換した節目だった。

■ 道路の本質的価値

  • 古来より「峠を越える」ことは人の営みの核心にあった。
  • 万葉集にも「信濃路」の歌があり、道・路(みち)・美知は文化や美しさへの扉と捉えられていた。
  • 道は単なる移動手段ではなく、人が知らなかった美しさを知るための経路である。

■ 世界のインフラ整備の潮流

  • ブレンナー基底トンネル(EU):全長55km。
  • TEN-T(交通網)・TEN-E(エネルギー網)など、EUは大陸規模のネットワーク構築を国家戦略として推進
  • 海底トンネル(デンマーク–ドイツ)18kmは2029年完成予定。
  • ネットワークは国を変える──これは欧州が証明している。

■ 日本の道路ネットワークの現状

  • 都市間平均速度:
     日本61km/h に対し ドイツ84km/h。
    → 1時間で行動できる範囲は約4倍の差。
  • 日本の道路法(昭和27年)は“網=ネットワーク”の概念を初めて制度に組み込んだ。
    → 当時からネットワークの力を理解していた。

■ WISENET2050

  • 2年前にロードマップ公表。
  • 「世界一、賢く、安全で、持続可能な道路ネットワーク」を目指す国家方針。
  • デジタル・自動運転・防災性能を統合した未来型インフラ構想。

■ 日本と観光(道路の新たな役割)

  • 2024年のインバウンド消費は8.1兆円。
  • 主力:アジア(中国・台湾・韓国・香港)+米国。
  • 地域別の特徴:
     長野県:台湾・オーストラリア・香港
     岐阜県:欧州・台湾・中国
  • 個人旅行が増加。「モノ消費→コト消費」へ転換。
  • 台湾は9割がリピーター。食文化・自然への関心が強い。
  • 欧州客は滞在が長く、消費額が大きい。
  • アメリカは「NYT 52 places to go 2024」の影響が大きい。
  • 観光動線=道路ネットワークの質が地方経済に直結する時代。

■ 道の駅「第3ステージ」

  • 道の駅は新たな段階へ。
  • 観光・交通・地域経済をつなぐ複合拠点としての進化が求められる。

■ 自動運転の方向性(日本の2ルート)

  1. 公共交通としての自動運転
  2. 自家用車としての自動運転

トヨタ e-Palette など民間技術も投入されつつある。

全国9か所で実証中。

「道路を活用した伊那谷・木曽谷の地域振興」
長野県 建設部長 栗林一彦 氏

■ 権兵衛トンネル開通がもたらした地域変化

  • 平成18年は「18災」と呼ばれる災害の多発年であり、県政も田中知事から村井知事へ転換した節目。
  • 伊那木曽連絡道路(約20km)により、伊那谷と木曽谷を直接つなぐルートが確立。
  • 開通前:80km・約120分
     開通後:35km・約50分
    → 移動時間が半減し、生活圏が一体化。

■ 社会・経済への具体的効果

  • 交通量(R3):1日約5,000台
  • 医療圏が大きく改善:
     松本地域の相澤病院まで90分掛かっていた旧木曽地域が、
     伊那中央病院で45分に短縮。
    → 木曽の医療アクセスが根本改善。
  • 商圏の再編:
     旧日義村では30〜60%が伊那市を利用する商圏構造に。
  • コンビニ進出も活発化し、木曽19号線沿いに倍以上の出店
  • 道の駅の新規進出も確認され、観光流入の拡大が続く。
  • 居住地と働く場所の選択が逆方向にも広がり、人的交流が増加。

■ 現状の課題:361号線の脆弱区間

  • 国道361号には依然として脆弱区間が残り、信頼できる幹線道路としては不十分。
  • 姥神峠道路の延伸事業が本格化
     - 延長3.5km
     - 設計速度80km
     - 幅員10.5m
     - トンネル3本・橋7本 → 極めてコストのかかる高規格事業
  • 国道19号へは立体交差で合流。
     特に7号橋は19号を跨ぐ構造で、今年から工事に着工。

■ 観光面の現実と潜在力

  • 上伊那は県人口比8.8%だが、観光消費額は3%と小さい。
     → 外国人観光客が少ないことが要因。
  • 木曽は人口1.2%、観光消費2.9%であり、潜在力に対しまだ伸びしろが大きい。

■ 道路ネットワークこそ地域振興の主役

特に国道19号は「迂回路のない命の道」として位置付け、
 災害時の孤立防止や物流確保の最重要路線となっている。

地域を支える主役は道路である。

強靭化・維持確保が地域振興の必須条件。

緊急輸送道路の拡幅整備も進行中。