令和7年度治水事業促進全国大会の様子

全国治水期成同盟会連合会主催により、令和7年度治水事業促進全国大会が11月11日に砂防会館で、市町村長448名の出席のもと開催されました。

全国大会に先立ち、東京大学の羽藤教授から講演がありました。

講演「地域の歴史から考える流域治水の実践と課題」

東京大学 羽藤英二 教授

1.治水の現状と課題

近年の治水災害において死亡者数が減少傾向にあることを評価しつつも、「油断はならない」と警鐘を鳴らしました。

日本各地には、近世以来の治水の仕組みが、堤防や集落配置、用水路などの形で風景に溶け込むように残されています。

これらの歴史的知恵を現代の治水計画や都市形成にどう活かすかが、今後の大きな課題であると述べました。

2.津波常襲地域の都市計画に学ぶ

津波被害を繰り返してきた地域の都市計画を例に、災害への備え方を再考すべきだと指摘しました。

  • 海岸保全施設は「いずれ破られる」ことを前提とし、被害を最小化する構造と運用を考えるべき。
  • 都市は固定的ではなく、「移動するもの」として計画すべき。
  • 特に低平地への立地や再建の支配要因は交通基盤であり、高台への事前復興や、既存市街地内でのインフィル型事前復興を支える交通計画が極めて重要であると述べました。

3.流域全体を見渡したマネジメントの必要性

流域の歴史的発展と衰退の履歴を理解することの重要性を強調しました。

河川、道路、鉄道、都市開発といった要素を個別に扱うのではなく、流域全体のマネジメント(流域治水)として総合的に捉え、
災害リスクと都市構造の両面から地域を再構築することが求められると述べました。

また、事前復興は可能であり、交通基盤整備と一体的に進めることで、都市の重心移動を促すことができるとしています。

4.流域治水の推進とリスクコミュニケーション

ダム・放水路・河川改修といったハード整備に加え、住民とのリスクコミュニケーションの充実が欠かせません。

避難行動の実効性を高めるためには、「避難カード」など、個々人が自ら行動を判断できるツールの活用が効果的であるとされました。

5.流域治水拠点としての「デザインセンター」

流域治水を進めるうえで重要な役割を果たす「デザインセンター」構想を紹介しました。

デザインセンターとは、行政・専門家・住民が一体となって、流域全体の治水・復興・まちづくりを“デザイン”する拠点であり、災害前からの「事前復興」や、「流域単位のまちづくりビジョン」の共有を支える中核施設です。

この拠点では、

  • 洪水リスクや避難行動のシミュレーション、
  • 被災後の復興まちづくりの設計、
  • 流域データの可視化・共有、
  • 住民参加型の議論・ワークショップの開催、
    などが行われ、科学的知見と地域知を結ぶ“共創の場”として機能します。

続いて、国土交通省より、話題提供がありました。

最近の河川行政に関する話題提供

国土交通省 水管理・国土保全局 治水課長 笠井 雅広氏

温暖化による降水量が増えていることが根拠づけられている。

ハード対策を進めるにあたり、資材価格高騰と労務費上昇が続いており、工事価格が令和2年度と比較した場合40%増加している。

また、直近3年間の建設工事費デフレーター(公共事業)の推移をみてみた。

  • 令和4年7月と令和5年7月比較 +4.2%
  • 令和5年7月と令和6年7月比較 +5.9%
  • 令和6年7月と令和7年7月比較 +6.3%

令和7年は直近3年間で最大の伸び率となっている。

引き続き、都城市長より、事例発表がありました。

流域治水対策(令和4年台風14号の被害と対応)

都城市長 池田 宜永 氏

  • 内水対策検討会の発足
  • 樹木伐採と河道掘削
  • 浸水センサーによる浸水情報の把握
  • 可搬式ポンプなど内水対策事業
  • 雨水貯留タンク設置に補助制度創設
  • ため池事前放流や田んぼダム推進
  • 雨水浸透施設の設置促進
  • 民間によるシンポジウムの開催
  • 遊水池事業
  • 引堤事業