(株)長野県食肉公社の食肉処理施設の廃止がもたらす影響について

JA全農長野の子会社の「長野県食肉公社」は、食肉処理施設の移転新設を断念し、可能な限り速やかに施設を廃止することになりました。

廃止される見込みとなったことは、単に一企業の経営問題にとどまらず、長野県の畜産・食肉流通体制全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。

長野県食肉流通合理化計画から読み解く

今回は、長野県が策定している「長野県食肉流通合理化計画(令和3年度〜令和12年度)」の内容を踏まえ、考えられる影響を整理します。

https://www.pref.nagano.lg.jp/enchiku/sangyo/nogyo/chikusan/kindaika/gourikakeikaku.html

1 県内食肉流通体制への重大な影響

長野県食肉公社は、松本市に立地し、牛・豚ともに県内最大規模の処理能力を持つ中核施設です。

計画書によれば、同社は県内で処理される食肉の約6割弱を担っており、県内流通の要となっています

この施設が閉鎖されると、県内の食肉処理能力が大幅に低下し、県内処理を前提とした流通体制が崩れ、県外処理への依存が高まるなど、県内完結型の食肉流通が成立しにくくなることが想定されます。

2 畜産農家への影響

計画書では畜産農家の高齢化、担い手不足、飼養戸数・出荷頭数の減少が課題として挙げられています。

処理施設が減少すると、出荷先までの距離が延び、輸送コストが増加し、出荷調整が難しくなり、価格交渉力が低下します。

特に小規模農家ほど経営継続が困難となり、畜産からの撤退を加速させる要因になりかねません。

3 食の安全・安定供給への影響

計画書では、安全・安心の担保、安定的な供給、県産食肉のブランド力向上を柱としています。

しかし、処理施設が減ることで、緊急事案や病畜などへの対応力の低下、家畜伝染病発生時のリスク分散が困難になる、県内供給量の減少による価格変動リスクといった、食の安全保障面での不安要素が大きくなります。

4 地域経済・雇用への影響

食肉処理施設は、雇用の創出だけでなく、加工業者、流通事業者、関連サービス業など、地域経済に幅広い波及効果をもたらしています。

閉鎖により、雇用の喪失、併設加工・流通事業への影響、地域産業の空洞化が生じる可能性があり、地域インフラの一部が失われることになります。

5 県の計画・政策そのものへの影響

計画書は「佐久広域食肉流通センター廃止後も、県内2施設体制で対応可能」という前提で構築されています。

そのため、長野県食肉公社の廃止は、計画の前提条件そのものを揺るがす事象のため、県の畜産振興・地産地消政策の再設計が必要となります。

行政の関与や支援の在り方が問われるという、政策的にも極めて大きな影響を及ぼします。

おわりに

(株)長野県食肉公社の食肉処理施設の廃止は、単なる企業撤退ではなく、県内畜産の持続可能性、食の安全と安定供給、地域経済、行政計画の信頼性有無に直結する、構造的な課題です。

阿部知事は10月23日の知事会見で下記要旨を述べています。

松本市の食肉処理施設の代替として、県が公設で新たな施設を整備する考えは現時点ではないと明らかにした。

JAグループなどの検討により、公設に近い形でも採算性や持続可能性の確保が難しいとの結論が出ており、県としても同様の認識に立っているという。

一方で、将来にわたって可能性を完全に否定するものではないとしつつ、当面は新設よりも、松本施設廃止に伴う代替対応や、施設整備以外の畜産振興策に重点を置く考えを示した。

北信の食肉処理施設については、当面は継続運営を前提とし、県全体の畜産のあり方については、関係者の意見を踏まえながら検討を進めるとしている。

今後は、県・市町村・生産者・流通関係者が一体となり、「県内食肉流通をどう維持するのか」という視点で、冷静かつ現実的な議論が求められます。